「うちの会社にはできない」。ある国内自動車メーカーの技術者が、米テスラ(Tesla)の車載コンピューターを見て白旗を揚げた。
Teslaは量産中の電気自動車(EV)である「モデル3」や「モデルS」などに、「HW3.0」と呼ぶ車載コンピューターを搭載する(図1)。内蔵する半導体を自社開発し、演算処理性能は144TOPS(毎秒144兆回)と高い。他社がコストを気にして採用に二の足を踏む車載コンピューターの水冷機構もいち早く採用した。
車載電子プラットフォーム(基盤)の中核に高性能なコンピューターを据えるアーキテクチャーは「中央集中型」と呼ばれ、自動車業界の関係者は異口同音に「実用化は2025年以降」と説明してきた。一方のTeslaがHW3.0を導入したのは2019年春。他社を6年以上も先行したことになる。
なぜTeslaは中央集中型の車載電子基盤をいち早く実用化できたのか――。
前出の技術者はTeslaの開発力を認めつつ、それ以上に脅威に感じた点として「しがらみの無さ」を挙げた。技術の優劣だけでは判断できない領域に、Teslaの強みが集約されている。
少数精鋭で車両を制御
高性能コンピューターを使う中央集中型の車載電子基盤にすることで起こるのが、ECU(電子制御ユニット)の減少だ。モデル3を分解して確認したところ、「走る」「曲がる」「止まる」に関わる制御は、HW3.0と3個の「ボディーコントローラー」が実行することが分かった。
約70個のECUで車両を制御しているというドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)のエンジン車と比べると格段に少ない。パワートレーンをEVにすれば部品点数は減るので、ECUも自然と少なくなる。それでも、以前分解した日産自動車のEV「リーフ」は30個ほどのECUを搭載していた。
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