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時価総額でトヨタを打ち負かしたテスラは、世界一の自動車メーカーといえるのか - ITmedia

 6月10日、米国の電気自動車大手のテスラ・モーターズが時価総額でトヨタ自動車を上回り、時価総額としては世界一の自動車メーカーとなった。テスラの時価総額はおよそ20兆円となり、トヨタに1兆円近く差をつけている状況だ。

 しかし、名実ともに世界一かといわれると、いまだ肯定できるとはいえない。2020年第1四半期のテスラ車販売台数はわずか8.8万台で、直近におけるトヨタの268.5万台と比較してもごくわずかな数字だ。販売台数という”実”が伴っていないにも関わらず、テスラの時価総額がトヨタを超えたのはなぜだろうか。

テスラは設立から17年で時価総額が自動車メーカーで世界一となった オコスモ作成 テスラは設立から17年で時価総額が自動車メーカーで世界一となった

予想PER253倍は割高か?

 時価総額の大部分を占める要素は「企業価値」にある。企業価値とは、そもそもその企業が生み出すと考えられる将来のキャッシュフローを、現在の価値に直した場合の会社の価値だ。販売台数と時価総額のギャップは、収益に対する株価の倍率であるPER(株価収益率)から比較できる。例えば、PERが100倍の時、その会社に投資した資本の回収に100年かかる水準であるという計算となる。

 テスラの予想PERはおよそ253.5倍だ。一方で、トヨタ自動車のPERは9.48倍。これは奇しくも販売台数のギャップがほぼそのままPERのギャップとして現れていることになる。

 ただし注意するべきは、「PERが253.5倍であるから割高である」というわけではない。なぜなら、本質的に異なる企業をPERという指標だけで単純比較することは不可能だからだ。

 PERの逆数は「株式益利回り」と呼ばれる。例えばPERが10倍の場合、これを利回りに換算すると10%となる。これを国債などと比較してみよう。日本国債の30年物の利回りは0.58%である。この利回りで投下資本を回収できるのは、約172年後である。つまり、日本国債をPER的に見ると、172倍となる。それでは、ハイリスクな金融商品とされているトルコリラをPER的にみるとどうだろうか。トルコリラの政策金利は8.75%であるため、投下資本を回収するには11.42年だ。PER的にみると、トルコリラは11.42倍となる。

 一般的に低リスクといわれる日本国債が172倍で、ハイリスクといわれるトルコリラが11.42倍であることから考えると、PERが高いことが割高と言い切ることは難しいだろう。

 日本国債の172倍が割高となり得る根拠は、「172年以内に日本国がデフォルトするか」という要素で決定されるべきであるからだ。一方で、トルコリラの11.42倍が割高になる根拠は「11.42年以内にトルコリラの価値を大幅に毀損(きそん)する事由が発生するか」という要素で決定される。つまり、PERを比較することは、日本国のデフォルト確率とトルコのデフォルト確率という全く異なるものを比較しており、無意味なことであるということだ。このように、異なるものや企業をPERで比較するべきではない。

 これと同様に、ビジネスモデルや経営者の能力といったさまざまな要素が異なる企業同士を、PERのみで単純比較することは無意味となるだろう。そう考えると、テスラのPERを他の電気自動車企業と比較すること自体も本質的ではない。それでは、テスラについた時価総額の根拠はどのようにして測るべきだろうか。

時価総額の根拠は?

 トヨタや市場平均とPERを比べることが実効的でないのであれば、テスラの時価総額における適正度合いは、やはりマーケットの一般的な企業価値の相場となる指標と、同社の成長性で図るべきだろう。冒頭で述べたとおり、企業価値は将来のキャッシュフローの総額を現在価値に割り引いた金額となる。これをディスカウントレートという。ディスカウントレートの値と期待収益率の値は一致する。つまり、ディスカウントレートが分かればテスラへの期待収益率が分かる。

 米国企業のディスカウントレートの基準は、長期米国債の利回りと、市場との連動性(ベータ)、そして株式市場リスクプレミアムを基準として計算される。株式市場リスクプレミアムとは、株式は国債よりもリスクが高いため、最低でも国債よりいくらか良い利回りが期待できなければ投資妙味がないという考え方である。

 米国の長期債は足元で0.71%の利回りとなる。また、テスラのベータは1.17だ。米国の株式市場リスクプレミアムは足元で5.6%となっている。そうすると、ディスカウントレートは0.71%+1.17×5.6%=7.26%となり、テスラの期待収益率はこの値となる。

テスラ躍進のきっかけとなった普及価格帯の電気自動車「Model 3」

 次に、テスラの予想PERは253.5倍だが、これの逆数が0.39%となる。PERの倍率は期待収益率から成長率を引いた数値の逆数であることから、0.39%=7.26%−Xという方程式を解くと、市場がテスラに期待する成長率が算出される。その成長率は年間6.87%だ。

 一方で、テスラの足元の収益における年間の成長率は15.18%だ。また、電気自動車市場全体を見てみると、19年から30年までの年平均成長率(CAGR)は21.1%で、世界大手の調査会社MarketsandMarkets社の調べによれば、今後も高い成長率を維持していくとみられる。

 テスラの成長率や電気自動車市場のCAGRから比較すると、足元の株価は不合理なほど高くはないことが分かる。テスラ株については現在の1.5〜2倍レベル、時価総額30〜40兆円程度まで上昇余地があるともいえるかもしれない。しかし、市場は6.87%の成長率を将来においても維持することを前提としており、高い成長率が継続するとはみていないようだ。

 仮に、この見立てでテスラが成長を続けた場合、テスラは2057年頃に現在のトヨタと同程度の売上高となる。

 ただし、この6.87%という成長率をテスラが達成していくのは難しい道のりかもしれない。そもそも成長率は規模が拡大すると一般的に鈍化する。また、ライバルの参入による競争激化で思った成長率を維持できなくリスクもある。電気自動車市場には、これまでの自動車業界の参入に加えて、ソニーといった異業種のエレクトロニクス企業も参入に積極的だ。

 そうすると、電気自動車市場は通常の自動車市場と比較しても、今後過当競争に陥りやすいリスクがあるといえる。電気自動車市場自体が高い成長率を維持したとしても、市場成長率のパイを丸々テスラが手にできるわけではない。

 30年までの電気自動車市場のCAGRが21.1%となるのであれば、テスラが今の株価を確保するためには、最低でも3分の1以上のシェアを将来も確保しなければならない。しかし、今の自動車業界でグローバルシェア3割を確保している企業は存在しない。この点を鑑みれば、テスラが今の株価を維持するのはやはり茨の道となりそうだ。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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