「もうエエわ」「もうエエやろ」-。敗戦後の指揮官・岡田彰布は連日のワンフレーズだった。本当はいろいろ言いたいのだろうが口を開けばグチになる。そもそもグッタリして話す気にもならないのか。正直、“取材拒否”というモードでもないのだ。

交流戦勝ちなしの4連敗で今季初の5連敗か。負けもそうだが接戦を落としているのが心身ともにこたえる。おまけに2試合連続でのサヨナラ負け。就任以来、もっとも苦しい状態と言えるかもしれない。

厳しい状態を象徴するのが「4番・近本光司」だ。明らかにイレギュラーである。本来はどっしりと同じ顔ぶれで戦いたい岡田だが、主軸・大山悠輔の不振もあって連日、苦肉の策である。それにしても近本が4番か-。意識が遠くなりそうな試合を見ながら20年以上前を思い出していた。

闘将・星野仙一が阪神監督に就任し、1年目を終えた02年オフ。星野は広島の主軸だった金本知憲をFAで迎えることに成功する。このとき、星野の中には当然ながら「4番・金本」の構想があった。

だが、これに反対したのが他でもない金本だ。「ヨソから来たワシがいきなり4番いうのはあかんじゃろ。いまの阪神は若い浜中(おさむ=当時)が4番を打つべきじゃ」。そう主張した。星野はこれを受け入れて03年は3番・金本、4番・浜中でスタートした。

金本が超人的とも言えたのはその打撃スタイルだ。2番を打っていた赤星憲広が出塁した場合、盗塁するまではまず打たなかった。自分のカウントに関係なく、待ったのである。「それが3番の仕事」という哲学によるものだった。

今季、チームの打撃不振から岡田は一時、近本に3番を任せていた。しかし、それで打棒が湿った近本と話し合った岡田は1番打者に戻す決断を下す。近本から「1番の方がいい」という考えを聞いたからだ。

だが、この日は4番に据えた。4番の方がまだいいのか。自分のペースで打てるからだ。もちろん、いまのチームに金本ほどの厳しさで3番を担う選手がいるとも思わないが、1度離れた3番に戻すよりはよかったのかもしれない。

いずれにしても現状の近本は1番がベストだと思う。それをできないのがチームの苦境を物語っている。ズバリ、勝率5割でリーグ戦に戻れるか。そこが1つのポイントと見る。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ロッテ対阪神 阪神のスターティングメンバー(撮影・前田充)
ロッテ対阪神 阪神のスターティングメンバー(撮影・前田充)