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“ニューノーマル”でスマート工場化が加速、CC-Link IE TSNの進むべき未来 - @IT MONOist

 工場の自動化を支え続けてきた産業用オープンネットワーク団体であるCC-Link協会(CLPA)は2020年に設立20周年を迎えた。20年の歴史の中で世の中の変化をどう捉え、これからのモノづくりをどう導くのか。本シリーズでは4回の連載形式で「CC-Link協会のこれまでとこれから」について紹介し、今後のモノづくりの在り方を読み解いてきた。

 第1回では、東京大学 名誉教授でCLPA 最高顧問の木村文彦氏によるスマート工場の将来像とCLPAの役割について紹介した。第2回では、CLPA幹事会社であるNEC・Cisco Systems・Schneider Electric・IDECの4社が新たなモノづくりの展望とCLPAとの連携について紹介し、第3回では、同じくCLPA幹事会社であるBalluff・Cognex・Molex・3MによるCC-Linkファミリー(※1)とデバイスレベルの情報連携について説明した。最終回となる今回は、CLPA代表幹事会社である三菱電機による工場の未来像について紹介するとともに、ここまでの連載を受けて、産業用ネットワークが果たすべき役割についてのCLPAの考えと今後の取り組みについてお伝えする。

(※1)CC-Linkファミリー:CC-Link、CC-Link IE、CC-Link IE TSNなど、CLPAが推進する各種プロトコルの総称

「e-F@ctory」でモノづくり全体の最適化を推進する三菱電機

 三菱電機の産業機器の歴史は古く、1924年に名古屋製作所で量産開始した三相モータから幕を開けた。1978年には「Factory Automation(FA)」の要となるコントローラー機器「シーケンサ」の量産を開始。「機械を駆動する技術」から「工場を制御する技術」へと、FA分野での技術革新を推し進め、FAトップメーカーとして工場の自動化をけん引してきた。その後、工場の自動化への要求の高まりと、生産ラインの複雑化に伴い、他社製品も含めたトータルFAソリューションの提案が課題となった。そこでさまざまな機器をつなぐための産業用ネットワークに対する需要が高まり、1996年に開発したのが「CC-Link」である。「CC-Link」はその後CLPAよりその仕様が公開され、2000年に“アジア初・発”のオープンネットワークとなった。三菱電機ではその後もCLPA幹事会社の1社としてCC-Linkファミリーの普及に力を注いでいる。

 三菱電機では、新たなモノづくりの在り方として、顧客ニーズの多様化・高度化ならびに製造業を取り巻くビジネス環境の複雑化が進むと同時に、ITによってデータを活用するデータ駆動型社会の進展が顕著となる流れを受け、2003年にFA-IT統合ソリューション「e-F@ctory」のコンセプトを打ち出している。生産現場の情報の見える化によって生産性向上、品質向上、省エネルギー、安全性向上、セキュリティ対応など、あらゆる機器や設備をIoT(Internet of Things、モノのインターネット)でつなぎ、データを分析・活用することで、モノづくり全体を最適化するスマート工場実現の取り組みを推進する。

 e-F@troryを支える技術としては、必要なデータを活用し生産現場の自動化を実現する「制御技術」、生産現場とITシステムを簡単に接続する「FA-IT連携技術」、そして生産現場の大量データを高速・効率的に収集する「産業用ネットワーク技術」があり、いずれもが大きな進化を遂げてきた。

 特に「産業用ネットワーク技術」では、制御とITを融合したIoT時代の動脈となる「TSN(Time-Sensitive Networking)技術」に着目。CLPAがいち早く規格化した「CC-Link IE TSN」の対応製品を、2019年に世界に先駆けて発売している。TSN技術は、高速な駆動制御と同時に、複数のプロトコルを時分割方式で同一幹線上に混在でき、データ分析に必要な情報収集を容易に実現できることが特徴だ。三菱電機のCC-Link IE TSN対応製品はすでに120機種以上が提供されており、さらに安全機能対応製品も拡充を進める計画だ。TSN対応の安全システムの構築にも対応する。

photo 三菱電機が推進する「e-F@ctory」のコンセプトイメージ(クリックで拡大)出典:三菱電機

 また、スマート工場実現の取り組みを推進する中で、新技術への挑戦も加速させている。その1つとして、総務省から5Gの実験試験局免許を取得し、ローカル5Gの実証実験を開始している(※2)。実証実験では、ローカル5G基地局と三菱電機のFA製品との無線通信伝送性能の技術検証やローカル5Gユースケースの検討を行う。今後、実証実験で得た知見を、FA製品をはじめとする幅広い製品やサービスに活用していく考えだという。将来的には、パブリック5Gと連携することで、バリューチェーン全体を最適化し、需要変動にフレキシブルに対応するスマート生産を目指している。

(※2)関連記事:MONOist「三菱電機とNECが工場向け5Gで共同検証、“ハイブリッド5G”でスマート化を加速」

 さらに、ニューノーマル時代に向けて重要性が高まるデジタルツイン構築に向けた取り組みも強化する。エンジニアリングチェーンの開発・設計から運用・保守フェーズまで全体を網羅するデジタルツインを構築し、自動化領域で培った経験とハードウェアの強みを生かしてIoT領域で顧客の製造現場を再現する。そのうえでOEE(設備総合効率)改善・トータル保全・リモート監視メンテナンスサービスを展開する。

 三菱電機が、モノづくりの在り方として目指すバリューチェーンの最適化には、現場を起点とした技術基盤とノウハウの継承に着目したダイナミック・ケイパビリティ(※3)の強化が必要である。そのためには、先述したような新技術を活用し、さらに進化させることが重要である。三菱電機が長年蓄積してきた製造現場でのノウハウを活用し、強固なデジタル基盤を構築することで、現場起点のモノづくりDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現することを目指す。

(※3)ダイナミック・ケイパビリティ:不確実な世界で環境変化に対応するための、組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力のこと(出展:経済産業省)

 ニューノーマルの時代を迎え、スマート工場化の流れはますます加速している。併せてスマート工場を支える技術の進化も止まらない。こうした中で、スマート工場構築に欠かせない“真にオープンな産業用ネットワーク”の役割はさらに重要になってきている。「“真にオープンな産業用ネットワーク”をグローバルに展開してきたCLPAには、今後も製造業の未来を見据えた最新技術の導入やそのグローバルスタンダード化を推進することを期待する。三菱電機は幹事会社の一員として、スマート工場化をけん引し、製造業の未来のために挑戦を続ける」(三菱電機)としている。

工場の変化とCLPAの果たしてきた役割

 さて、ここまで4回の連載形式で20年間の工場の変化と、CLPAの活動について幹事会社各社の取り組みを通じて紹介してきた。現在、CLPAの拠点は日本を含め世界11か国・地域に広がり、CLPA会員数は3800社(約80%は海外の会員)、CC-Linkファミリーに対応する製品は2200製品を超える。

 この20年間、製造業の「グローバル化」に伴い「オープン化」や「標準化」に対する要求は大きく高まった。また「自動化による生産性の向上」も飛躍的に高まり、産業用ネットワークにおける機能・性能に関する要求も変化してきた。

 この流れを受け、CC-Linkファミリーは3段階の進化を遂げた。2000年に「第1世代」としてシリアル通信ベースの「CC-Link」、また2008年には「第2世代」として業界初1Gbps Ethernetベースの「CC-Link IE」を仕様公開し、データ量の飛躍的な向上とフィールドレベルからコントローラーレベルまでの適用領域拡大を実現した。

 その後、ドイツが国家戦略として推進した「インダストリー4.0」や経済産業省が打ち出した「Connected Industries」など、人・モノ・技術・組織などあらゆるものがつながることによる新たな価値創出、いわゆるスマート工場化が加速した。そこで2018年、世界に先駆けてTSN(Time-Sensitive Networking)を採用し、「第3世代」となる「CC-Link IE TSN」を仕様公開した。

 各ネットワーク団体が独自の規格で実現していたリアルタイム性を、Ethernetの拡張規格であるTSNを採用することで実現し、モーション制御のような高速・高精度な制御と同時に、他の産業用ネットワークやITネットワークを同一幹線上で混在可能にしたことが大きな転換である。

今後のCLPAの取り組みと果たしていくべき役割

 今までの取り組みを経て、今後CLPAが果たしていく役割はどういうものになるのだろうか。自律的で最適なものづくりを目指す「スマート工場」は、Connected Industriesの1つの柱であり、CC-Link IE TSNは、その基盤となる産業用オープンネットワークだといえる。生産現場やITシステムなど「工場の中」だけでなく、エンジニアリングチェーンからサプライチェーンまで一気通貫でつなげるインフラとして全体最適化を実現する。

 そのために、CLPAは次の3つの視点でCC-Link IE TSNを進化させ、パートナー製品や、三菱電機のe-F@ctory・Schneider ElectricのEcoStruxure統合アーキテクチャ・MolexのIndustrial Automation Solutions 4.0など各社が進めるソリューションと共に、スマート工場構築に貢献していく方針である。

1つ目の視点:あらゆるものが「つながる」

 ネットワークはそれに「つながる」製品が多いほど「価値」が上がる。安価で容易に対応製品を開発できる環境の整備はCLPAとしての大きな役割だといえる。開発ツールパートナーと共に、CC-Link IE TSNに「つながる」製品の拡充を推進する。

 CC-Link IE TSNは、自動車・半導体・バッテリー製造など幅広い業種での適用が可能だが、コントローラーレベルからセンサーやアクチュエータに至るまでさまざまな機器や監視・分析・診断のソフトウェアなどあらゆるものがつながる必要がある。例えば、連載第3回で紹介したCognexのマシンビジョンなど、センサーはスマート工場における重要な“触覚”であり情報の入り口となる。また、BalluffのIO-Linkゲートウェイなどのゲートウェイ技術を適用した他ネットワーク接続製品の活用も推進し、「つながる」製品のラインアップを広げていく方針である。

2つ目の視点:シンプルに「つながる」

 産業用ネットワークは従来構築が難しいと見られてきたが、将来的に目指す姿としては、究極的にはつなげば動く、いわゆる「plug-and-play(プラグ&プレイ)」のように、簡単・便利につながるネットワークへの進化がある。今後、他の産業用ネットワークがTSNに対応していくときに、同一幹線上に混在できるような、相互接続性の実現に向けても積極的に取り組んでいく。

 さらに、モノ・環境・設備・ヒトが機能とデータで高度で連携するため、Wi-Fiやローカル5Gなど無線の活用で生産システムの構築をよりシンプルかつ柔軟にできる可能性が広がっている。連載第2回で紹介したように、CC-Link IE TSNによるネットワーク一本化とNECなどが持つローカル5G技術を組み合わせて、新しい工場の在り方を提案していく考えだ。

3つ目の視点:安心・安全に「つながる」

 FAとITの融合に伴いさまざまなデータの活用が広がりを見せる中、製造現場のサイバーセキュリティ対策の必要性は今まで以上に高まっている。連載第2回では、Cisco Systemsが「ゼロトラストの視点からの総合的なセキュリティソリューションの重要性」を紹介したが、CLPAでもこれらの対策を進めていく方針だ。2020年10月にCLPA内でセキュリティワーキンググループ(WG)を発足した。同WGでの議論を中心にサイバー攻撃などに対応するセキュリティ対策を進め、セキュリティが確保できるシステム構築とその仕組みを目指していく。

 また、連載第3回では、IDECが、人と機械の協調安全を志向する次世代の安全安心思想「協調安全/Safety2.0」の考え方を訴えたが、ニューノーマル時代にこれらの「安全」への考え方も従来以上に重視されるようになってきている。CLPAではCC-Link IE TSNの安全機能を訴求し、対応製品の拡充や安全ソリューションの強化に取り組む方針である。

つながる世界のさらなる拡大

 これらに加え、多岐にわたる製品がつながるということは、物理的に結ぶケーブルなどにも変化が生まれる。連載第3回では、3Mが、CC-Link IE TSN対応ケーブルの展開について紹介するとともに、ケーブルアセンブリー製品の信頼性、堅牢性の重要性を訴えたが、CLPAとしても今後は光ケーブルへの対応含めニーズに合わせた高速伝送の信頼性、堅牢性を実現する製品の拡充を推進する。また、将来製造業での適用が見込まれるSPE(Single Pair Ethernet)技術など新技術の適用も動向を注視しながら検討する。

 一方、2020年11月には、半導体デバイス製造のグローバル大手であるアナログ・デバイセズがCLPAの10社目の幹事会社に加わった。同社はTSN技術をリードする1社であり、TSN対応機器拡充に大きな役割を果たすと見られており、共にCC-Link IE TSNの技術革新を推し進めていくという(※4)

(※4)関連記事:MONOist「CC-Link IE TSN拡大へ、CC-Link協会の幹事会社にアナログ・デバイセズが参加」

photo CLPAが描く、CC-Link IE TSNで実現する「Connected Industries」の世界(クリックで拡大)出典:CLPA

CLPAの言葉「CLPAの20年、これまでとこれから」

 「日本発&初のフィールドネットワーク『CC-Link』を世界のオープンネットワークへ」を合言葉に2000年に設立されたCLPAは、2020年11月に20周年を迎えた。この節目を迎えることができたのは、ひとえに多くのお客様、パートナー企業の皆さまの多大なるご支援のたまものであり感謝の念を禁じ得ない。

 連載第1回で、CLPA最高顧問で東京大学 名誉教授の木村文彦氏の言葉にもあったように、工場のスマート化は発展途上であり、さまざまな理由により「できるけれどもやっていない」ことは多い。しかし、コロナ禍での環境の激変により、“ニューノーマル”と呼ばれる時代において、これまで目指していたスマート工場の姿が変わるというよりも、その実現が早まることになる。

 これからもCLPAは“ニューノーマル”時代において「波に乗る」のではなく「波を起こす」パイオニア、またチャレンジャーとして、多くのパートナーの皆さまと共に、お客様にとって本当に価値のある世界観や導入事例を発信し、共創できる場の提供に努める。そして、「Connected Industries」の実現を加速させる真にオープンな産業用ネットワークを、ますますグローバルに展開していきたい。

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